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大学当局あて要求書(1999年12月2日付け)
1999年12月2日
島根大学
学長 吉川通彦殿
庶務課長 永野節 殿
島根大学教職員組合
中央執行委員長 横田綏子
要求書
貴職におかれましては,教職員の労働環境の改善に不断のご努力をいただき,ありがとうございます.
島根大学においては平常の教育研究や大学内外の諸サ−ビスに加え,現在,喫緊の課題,独立行政法人化問題や大学審答申への対応が超人的スケジュ−ルで取り組まれています.当然,前者に加え,後者もまたこの間の大学における重要な使命の一つであり,真摯に取り組んでいく必要があると考えているところです.そのために重要なのは,大学構成員がすべて,ひとしくこの問題を自分のものとして考え,議論に参加し,その結果なされた決定に責任を持っていく姿勢です.
大学は高等教育機関として,長期的な教育と研究の充実と改善の展望をもたねばならず,またそのためにも,いうまでもなく,そこで働く者にとってそれに相応しい身分と環境が必要であると考えます.
こういった観点から,以下の諸点を要求します.ご検討いただき,よろしく対処いただきますようお願いします.
1.独立行政法人化問題と大学改革について
1.1 民主的な「ガラス張り」の組織運営について
現在,島根大学を含め全国の国立大学は,独立行政法人化を突きつけられ,存続さえ疑問視される未曾有の状況に追い込まれている.ここ10年,大学改革の名のもとに多くの改組,教育課程の改編等が行われてきた.これらの総括は置くとしても,現段階でもそれらが大学改革の本来の目的に添ったものであったと言い切るだけの論拠は見いだせない.まず「改革ありき」で,常に性急な時間的制約の中での拙速な,かつ理念の提起が充分でないままの議論であったと言うべきである.
ところで,島根大学創立50周年記念式典での日の丸掲揚決定に対して,われわれは,大学組織運営上の基本理念であると考える「自主・自律」,「学問の自由」を尊重する立場からこれに強く抗議を行った.これは学長自身が学長候補者として組合からの公開質問に対して回答した「大学としての意志決定に際しての学長のリーダーシップの根幹=1.理念・目的について構成員の充分な意見集約,2.意志決定手続きの透明性の保証,3.日常の学内行政に対する構成員からの信頼性の確保.」と照らし合わせても,極めて不当な手続きと決定であったからである.
現在,島根大学構成員は,単なる「生き残り」だけではなく,その存在が広い意味で社会のためになる大学像を模索し,その実現への方策を提案する義務を負っている.
国際社会と日本の高等教育の一翼を担うという役割はもちろん,特に,地方大学として地域に対する貢献を一つの大きな使命として課されている島根大学においては,この役割を明確にし,自覚的に取り組んでいくこともあわせて非常に重要であろう.
これらの困難かつ重要な課題を大学として解決していくためには,学内におけるリーダーシップがこれまでにも増して重要であると考えている.大学という組織におけるリーダーシップは,リーダー(執行部)の責任ある姿勢と,学内の「民主的議論に基づく合意形成」の組み合わせにおいてのみ成り立つものであり,そのためには,執行部の構成員に対する積極的な情報開示と論点の整理・方針の提起と,学内における自由かつ責任ある議論の保障が不可欠であると考える.
こういった体制の実現は,戦後新制大学としてスタートし現在に至った大学制度における問題とされる点,たとえば,大学におけるリーダーシップの不在,意思決定の責任の所在の不明確さ,その遅さなどに加えて,学内における職種・職階間の意思疎通の不充分さ,部局間,大学と地域,大学間などの交流,連携の不充分さなどといった問題をあわせて解決するための重要なキーポイントであろうと考えている.
そこでまず,次の点について考えを述べられたい.
(1)学長となった現在,大学内の民主的議論と学内の合意形成のあり方についての方針はどのようなものか.
1.2 独立行政法人化問題について
現在,「通則法に基づく」独立行政法人化が国立大学の将来を左右する最大の焦点となっている.次の点を明らかにされたい.(1)国立大学の独立行政法人化に関する学長の基本的スタンスを明確に表明されたい.かりに,ある条件が充たされるのなら賛成できると考えているのであれば,その条件を明らかにされたい.
(2)全学教職員集会で明らかにされた,独立行政法人通則法に基づく独立行政法人化に反対であるとの態度表明を,地域に対しても早急に行われたい.そのために,この問題に関し,地域住民を対象とした公開シンポジュームなどを大学主催で開催すること,及び,経済界や地元首長,国会議員への働きかけなど,大学のこの問題についての考えと地域への貢献の意思を明確にされたい.
(3)学内の様々な意見を採り入れた夢のある大学運営を行っていくために,手始めとして,独立行政法人化問題に関して,学内で自由な議論のできる場をたびたび設けられたい.
(4)国立大学協会第105回総会において,独立行政法人化に対抗する設置形態を検討するべきだとの意見があったが,わが島根大学では具体的にその準備はすすめているのか.進めているのであれば,具体的にはどのようなことであるのか明示されたい.
(5)独立行政法人化問題に関する情報を積極的に収集し,その情報を教職員に対して積極的に公開されたい.
1.3 大学の組織改革について
1.3.1 第一部会関連−大学の組織運営体制の見直しについて
組織運営体制の改革に関して,構成員の意見を早急に集約する必要があると考えている.先の全学教職員集会において,改革の方向についての概略について報告がなされた事については,オープンな議論に基づく組織改革に向けた大学当局の前向きな姿勢のあわられとして,また要望を容れていただいたものとして,組合としても評価をしている.こうした流れをさらに実効あるものとするために,以下の内容について公表すべきであると考えるので回答されたい.(1)現在進行中の組織運営体制,制度改革案の構想について,検討の現状を具体的に明らかにされたい.
(2)上記の内容について,全学の意思決定に必要な意見交換の場を保障されたい.特に充分な議論と意見集約がなされるよう,全学集会開催等の措置をとられたい.
(3)組織運営体制の改革については,現在の体制との比較をするなどして,改革後の各組織ならびに役職の具体的な役割と,その分担を明らかにされたい.具体的には,学長及び補佐体制とそれらの選出方法,外部有識者の助言・勧告機能を有する機関,自己点検と自己評価機関等.
(4)制度改革については,大学としての統一的な合意形成を妨げるものではない.しかし,問題によっては多様性を必要とする内容もあるので,それについては,学部や学科の実態にあった柔軟な選択を行えるように配慮されたい.具体的には4年未満卒業の例外措置,9月入学制度,単位互換の実施形態等.
1.3.2 第二部会関連−学生系事務組織の再編について
「学生サ−ビス事務機構の一元化」の検討案(一部)と作業スケジュ−ルが11月の各学部教授会並びに全学教職員集会でようやく公表された.これはとくに学部教育の根幹に係わる問題にもかかわず,これまで議論が充分オ−プンにされてこなかった点で,まことに遺憾である.(1)同案は,厚生補導関係事務の一元化,教務関係及び入試関係事務の原則一元化,教務課の専門教育学務担当と学部専門職員(学務担当)の配置計画となっているが,どのような検討過程を経て原案が作成されたのかをお聞きしたい.
(2)本案検討の際に先発校の情報入手・分析と想定されるケ−スのシミュレ−ション分析を行い,予想される問題点を点検されたのかをお聞きしたい.
(3)計画実施に当たっては来年あるいは来年度の前半の半年間程度の試行期間が設定されている点では組織の柔軟性が評価できるが,この間の実態・問題点を充分に把握・公表しその見直しを柔軟に対処するための手順書を作り,公開されたい.
1.3.3 第三部会関連−事務組織体制の改革について
(1)交渉時点での検討の進捗状況について,特に,地域連携推進室構想及び,第二部会で検討中の学生系事務機構の改革との関係について方針の詳細を明らかにされたい.
(2)この問題に関する,職員に対する情報の伝達と意見の聴取の実施がいまだ不充分であると考える.
1)この問題に関する情報の,職員への伝達の経路を明らかにされたい.
2)意見を聴取するための制度を明らかにされたい.
3)情報伝達,意見聴取を含めた広い意味でのマネジメントシステムを構築し,その概要を明らかにされたい.
2.教職員の待遇について
2.1 定員削減について
本年度の第9次定員削減に対する本学の対応状況及び平成12年度以降の本学における定員削減の見通しを知らせていただきたい.また学位授与機構への1名吐き出しによる学内事務組織への影響とその対応について明らかにされたい.
2.2 一時金の成績率について
勤勉手当成績率基準を職員に適用する際,個々人の成績率がどのような評価により決定されるのかを具体的に明らかにされたい.また,成績率適用に際して管理者の推薦評価を経る以上,その公正な運用を担保するしくみとして,個々人への通知の検討をされたい.
2.3 級別定数の改善と公表について
級別定数については引き続き上位級定数の確保に努めていただきたい.また級別定数の公表について,情報公開という意味からあらためて検討されたい.
2.4 超勤について
大学の運営にかかる事務処理においてサービス残業が公然の事実であるという認識はすでにいただいている.昨年度の交渉では超勤の一掃へむけて,特に事務効率化による負担軽減をめざすと返答されている.しかし現実には,200時間/月もの残業負担の例も聞かれ,職員の健康への影響が懸念される.また特定の職員への残業の集中など,職員間に不公平感と志気の低下を招きかねない状況にある.このような現状を改善するための計画を明らかにされたい.
2.5 職員の研修制度の改善について
学長はこの5月の交渉で,「事務系の場合,研修などを通して能力を高めていく必要がある」旨の話をされている.われわれも,適切な研修への参加は,業務遂行能力を高め,効率化,労働意欲の向上にもつながると考えている.しかし現在の研修制度は,職員の希望や意志が充分反映されているとは言い難い面がある.研修制度をさらに充実させるため,時期,内容など,運用次第で改善できる点があるのではないか.技官,定員外職員も含めた職員の研修制度に対する考え方を明らかにされたい.
2.6 非常勤職員(日々雇用)の退職手当支給額の算出根拠について
現在,非常勤職員(日々雇用)の年1回の任用中断に伴う退職手当の支給時に,0.3ヶ月分に相当する額が支給されている.この額は適切なものではないと考えるが,その算出根拠を明らかにされたい.
2.7 俸給について
人事院によるマイナス勧告によって,教職員の生活問題の悪化や労働意欲への影響が懸念されている.大学全体の適正な運営にとっても決して好ましい状況とはいえない.本学教職員の厳しい生活と労働の実態の現実をふまえ,改善へ向けて努力していただきたい.
2.8 新再任用制度の運用について
去る7月に国家公務員法の一部改正,またそれを受けた10月の人事院規則及び通知によって,新たな再任用制度が平成13年度から導入されることが決定された.これは,公的年金の満額支給開始年齢の引き上げに伴うもので,本質的には定年延長が必要だと考えるが,当面,理念的には賛同できる.希望者全員が妥当な待遇のもとで再任用されることを願うものである.しかし,再任用の学内における運用面については,制度的に次のような問題点を抱えているものと認識し,危惧をいだく.すなわち,(1)再任用された職員は定員管理の枠内にあり(フルタイムの職員について,また短時間職員に関しても相当分),その雇用は新規採用や在職する職員の昇級昇格の妨げとなる可能性がある.
(2)退職時級及びその官職と,再任用された際のそれとの間の関係が明確でない.再任用される職員をどのような待遇で迎えるのか.
(3)本人が再任用(あるいはその更新)を希望しても,「従前の勤務評定」による選考がある.それがどのように行なわれるのか.その基準とはなになのか明確ではない.人事院が「できる限り」と要請していることにどの程度応えることができるのか.
この再任用制度の平成13年度からの段階的実施をひかえ,来年度の早い時期に計画を具体化し,概算要求に盛り込んでいく必要がある.ついては,上記の点について,貴職としてはどのような考えをお持ちかお聞かせ願いたい.また,現段階での検討状況はいかがか明らかにされたい.
3.学内の環境整備(人権,福利厚生,環境対策)について
3.1 セクシュアル・ハラスメント対策について
組合では,本年4月6日付け要求書において,5項目をあげて改善を要求してきた.7月以降,「島根大学セクシュアル・ハラスメント防止等に関する規則(案)」〔以下(案)〕が提示され,各学部教授会でも議論がなされた.セクシュアル・ハラスメントに対する世論の意識が高まっているなか,人権問題を核にした今回の(案)は,この問題に対する島根大学の見識を示すとともに,大学内外への抑止力的効果も期待できると評価している.
しかし,不幸にしてこの種の問題が生じた場合,被害者の人権保護と加害者への対処,関係者のプライバシー保護,デリケートな問題であるが故の泣き寝入り等,我々の予測を越えた事実調査や状況対応への困難さも予測される.従って,今回の(案)を一応の成果ととらえ,今後ともより適切で有効な制度確立への努力を望むところである.これらを踏まえた今後の見通しと,以下の関連項目にお答えを頂きたい.
(1)相談窓口,あるいは調査委員会に顧問弁護士等,学外者を加えることはできないか.
(2)守秘義務の記載がないが,問題はないか.
(3)懲罰の記載はできないか.
(4)管理責任者の責任を明確化(明文化)できないか.
(5)被害者に対する事後のメンタルケアの体制の整備をすべきではないか.
(6)第3条には,入学者に対する人権問題ガイダンス,職員に対する研修,学生及び職員を対象とした講演会の開催,学生生徒及び児童に対する人権問題に関する教育の実施,が盛り込まれている.これは,防止への最重要ポイントと考えられるが,実施計画はどのようになっているか.
3.2 包括的な環境対策としての ISO14001 取得について
大学は,社会から見た場合にはひとつの事業所であり,近年環境への配慮が求められている.環境負荷を低減する努力はますます必要になるとともに,その努力が正当に評価されるようになってきている.近年,自治体などではその環境負荷低減の努力を表現し,社会的認知を得るために ISO14001の取得をめざし,実現させている例が増えている.大学においてはまだ取り組みは遅れているが,すでに取得した事例が2例ある.当島根大学においては,生物資源科学部の総務企画委員会の下に「グリーン・キャンパス・ワークショップ」が設置され,学部レベルでこの問題にどう取り組むかが検討され始めている.ISO14001の取得は,社会責任の実現のみならず,島根大学の環境への取り組みの社会へのアピール,それを通じた本学への入学志望者の増大,構成員の意識の啓発など,さまざまなメリットが考えられ,ぜひとも達成すべきだと考える.年来,教職員組合として要求してきたゴミ分別など,個別の環境問題を包含し,包括的に環境問題を解決するために,大学としての検討と実現への努力を要望する.
3.3 駐輪場の整備について
昨年の要求書にも示したように,車椅子用スロープが放置自転車によって使用不能になるなど,本学の駐輪環境の整備は再考の余地がある.例えば教育棟横に設置されている一部の駐輪場のように,法文棟,一般教養棟近辺の駐輪場に屋根の増設をすることによって駐輪場としての空間意識が生まれ,学内メインストリートの美観上の改善,あるいは,大学祭における模擬店への利点も考えられるのではないか.今後の整備計画等具体的に説明されたい.
3.4 バリアフリーについて
社会的にバリアフリーに対する認識が高まっている中,本学では改善が不充分である.このような状況は,障害者が研究・教育活動,就労に参加することを事実上不可能ないしは極めて困難な状況におくことを意味するだけでなく,指導を受けている学生の学業上の不利益も起りうる.また,障害者が入学する上でも大きな問題である.これらの現状をどう把握し,どのような改善計画を立てているのか具体的に説明されたい.
3.5 ソフトビジネスパーク建設に伴う道路拡張工事について
島根大学北西部に「ソフトビジネスパーク」の造成が進行中である。これに伴って,大学西側の道路をアクセス用に拡張する案が提示されている.工事とその後に予測される騒音,振動等の被害は,事務局,教育学部,一般教養棟に及び,全学的問題と考えられる.教育学部教授会では教育研究に与える被害が予測される意見が出された.大学として,騒音・振動調査,交通量調査等の実施を行なうとともに,今後どのように対処していくのか明らかにされたい.
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