国立大学の独立行政法人化に関する見解

1999年5月6日
島根大学教職員組合中央執行委員会

国立大学はこれまで,教育と学術研究は,長期的視野に立って推進するべきだという理念のもとで,国や地域の民主的リーダーおよび科学・技術や文化創造の担い手となるべき幾多の人材を輩出してきた.この間,教育は単なる経済的な採算性に束縛されてはかならずしも達成しえない特質を持つものと認識され,大学関係者はその特質を尊重しながら,一方では教育・研究の質を向上するための様々な努力を払い,着実な成果を挙げてきた.私たちは,この姿勢を将来も変わりなく維持することが,短期的な効率主義の観点に立つよりもはるかに望ましいことだと考えている.

ところが,去る1月26日の『中央省庁等改革に係る大綱』に,行財政改革の効率的達成を第一の目的として,国立大学の独立行政法人化を検討し2003年までに結論を得ることが盛り込まれた.その経緯をみれば,導入の公算は高いものと思われる.もし独立行政法人化が強行されれば,非常に大きな問題を持つ決定である.それは,この独立行政法人化が,そもそも教育・研究を向上させるために検討された施策でない,というところにある.すでに全大教が1月19日付けの中央省庁等改革推進本部宛の要求書で指摘しているように,独立行政法人化が国立学校全般の教育・研究のあり方に大きな影響を及ぼすことは明白である.独立行政法人は,その名称にうたわれている「独立」の語とは裏腹な存在である.そこでは,効率性を最重視した所管大臣による中期目標の押し付けと中期計画の認可が行われ,管轄する省および総務省におかれる評価委員会による評価がなされる.それに基づいて,長の人事,組織の体制や公的資源の配分等が中央の所管する省によって左右されることになる.その結果,大学の差別化が公然と行われ,上述のような本来あるべき教育・研究の具現が困難となることが十分に予測される.異なる専門分野・領域間での配分の偏りも顕著になる可能性が高い.これらの偏重は「大学審議会答申」にうたわれる「個性化・多様化」構想によって支えられ,その結果,地方の小規模大学には極めて限定された機能しか許されなくなるだろう.また,労働条件から見ても,効率を最重視する業績主義は,教職員の心労や過度の超過勤務,および人事への悪影響などをひきおこす.多くの地方国立大学では,負託されている社会的責任を誠実に果たしていくことが困難になるものと思われる.

独立行政法人化は,これまで地方国立大学が地域社会の一つの核として達成してきた地道な学芸・文化の向上と地域の多様なニーズに応える人材育成の土壌を,中央省庁による統制の強化によって台無しにしてしまうのではないだろうか.また,政治・行政から独立した学問の自由を守ることでこれまでに果たしてきた国立大学の社会的役割が,著しく損なわれるのではないだろうか.大学における教育・研究の本質的向上とは別の目的で独立行政法人化が進行しようとしていることに,私たちは大きな危惧を覚える.